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03:人形として扱われることのなかった少女人形のお話

20?? 10/5

私のご主人はとても優しくて賢くていい人でしたが奇抜な人でもありました。部屋にこもったら、一般人の理解の範疇を超えるよくわからないものばかり作って、それを見てはしてやったりみたいな顔で笑っているのです。私はこの人に購入された球体関節人形で、中からその様子をこっそり覗いてました。

 

ご主人の家にはもう一つ、手作り感あふれる建物がありました。そこはつまりお化け屋敷と言うもので、建物の中はご主人が作っていた小道具などがあちらこちらに飾ってあり演出の効果も重なってとても異様な雰囲気を漂わせていました。当時の私に恐怖という感情はありませんでした。何も感じませんでしたが、今の私が見たら間違いなくドン引きです。

 

20?? 10/7

私はお化け屋敷の中の仕掛けの一つとしてメイクを施され、天井から逆さに吊るされました。思い返せばなんとも言えない酷な扱いですが、仕方ありません。あのご主人は私を初めから道具のつもりで購入したのですから。私のことは道具の一つ、それ以外の何物でもありません。

20?? 10/8

案の定、お化け屋敷に入った方は仕掛けに驚き、恐怖に怯えて絶叫し泣き叫んでいました。それに対し私は何も感じませんでした。ただひたすら、目の前で起こる事を眺めているだけでした。私を見てどのような反応されても何も感じません。私を見て怖がる人を見て、ああ、私は怖いんだと思うぐらい。それが、私なんだろう。それだけ。

 

20?? 11/5

今日もまた客は恐怖で逃げ惑う。

20?? 4/27

今日は変わった事がありました。ご主人が用事でいない昼間の出来事です。ご主人がいない時間帯はお化け屋敷は閉めてあるのですが、たまたま開けっ放しにしていたのでしょう、何も知らない客が屋敷のドアを開けて中を覗いたのです。私はそれを見てなおどうすることも出来ないし、どうしようとも思いませんが、中に入って来たのでさすがにヤバいのでは、と感じたました・・・が、私と目があったその人はにっこり微笑んで出て行ってしまいました。一体何がしたかったのでしょうか。しかも私を見て驚いたり怖がったりしないどころか笑いかける人なんて初めてです。暗くて顔を鮮明に見ることはできませんでしたが、綺麗なお洋服を着ていました。

 

20?? 6/14

今日もまた客を恐怖に陥れるのみ。

ですが、なんだかそれに違和感を覚えるのは何故でしょうか。私を見る客の顔を見たくないと思ったのは初めてです。

 

20?? 7/7

なんで?私はこの違和感の正体がわかりません。ただひたすら、ここに来る人の顔を見たくないと、見るとなんだかモヤモヤとするのです。

 

20?? 10/27

しばらくして、私はこのモヤモヤの正体がだんだんわかってきました。それと同時に私には何故か、人格及び感情が芽生えてきたようです。意味がわかりません、理解に苦しみます。私は元々そのようなものを必要としない存在なのですから要らないはずで、そもそもそんなこと有り得ない。

 

20?? 11/3

そして大変皮肉ながら、私が感じていた違和感は、私を見た人がその時に感じる「恐怖」。それに加え、人が不快だと思う感情のうちの「悲しみ」を同時に感じていたというのです。

 

20?? 11/24

嫌です。私はもう、私を見てこのような気持ちになる人を見るのは嫌です。私はまだ喜びに準じる気持ちを知りませんが、どうせなら人を泣かせるより、人を笑顔にしたいです。できなくてもいいから、もうあんな顔をされるのは嫌です。

 

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20?? 7/1

あれから時は経ち、いつしかうちは経営難に陥り、一度はからくり屋敷に改造して客足は少し回復しましたがそれもすぐに廃れました。ご主人は仕方なくこの屋敷を手放し、道具は捨てたり売ったりすることを決意したようです。

20?? 10/14

悩むに悩んだ末に私は廃棄される事になったようです。もうこの体も往年の結果、ガタがきているようですし関節もゆるくて、初めて地面に降ろされてもなかなかうまく立てませんでした。廃棄される事に関しては、仕方がない事だと思います。古くて使えなくなったガラクタはそれがさだめというやつです。しかし、ご主人はギリギリまで思いとどまり、なんとか譲ってくれる方を探しました。人脈はある方なのですがなかなか引き取り先が見つかりません。

 

20?? 11/5

突然の知らせです。新しい引き取り先が決まりました。見た感じ、若い女性の方ですがあまり裕福そうではなさそうです。いえ、それだけで人の優劣を決めるわけではございませんが、ご主人のように私を活用できる別の建物を所有しているわけではないですし、私は今後、どうなるのでしょうか。まったく想像がつきません・・・。



 

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